東京高等裁判所 昭和29年(ネ)441号・昭28年(ネ)1248号 判決
(一) 以上の証拠資料によれば旧建物は被控訴人が買い受けた当時は、六畳三畳二畳に便所、瓦斯、水道付の居宅で訴外吉田テイが居住中であつたが、昭和二十四年三月ごろ同人が本件アパートの他の居室に移転したあと、被控訴人はこれを店舗に改造して他に賃貸しようと思い、内部の造作類一切を取りはずし、周囲の壁も西側のアパートに接着しこれとの仕切りをなす部分を除いて大部分取りこわし、その結果旧建物はアパートの二階を支える柱十数本、建物の基礎工事、ひさしの一部、北側の壁の一部及び南側の鴨居から上の壁が残存するのみで(以下これを既存工作物という)土間は露出し、内部への出入は自由になされる状態となつたまま相当期間放置され、附近子供らの遊び場となつていた、たまたま控訴人は中野駅附近で呉服商を営む考えで店舗を物色していたところこの場所を知り、昭和二十五年二月十三日被控訴人の夫訴外長田信(同人が被控訴人の代理人であるかどうかはしばらく別とする)から右の状態のまま控訴人において既存工作物を利用し、周囲の壁、床張りその他造作等一切は控訴人の営業に適するよう自由に自費で取り付け、店舗として使用することができるという約束で、「店舗権利金」として金十五万円を支払つた上、賃料一ケ月金三千円毎月末日支払の約束で期間を定めず賃貸借契約を締結した、そして控訴人は自己の費用で旧建物よりさらに約二坪南側に拡張し、その部分の屋根を設け、周囲の壁その他の周壁を備え、土間コンクリートを作り、内部造作等一切を取り付け別紙目録記載のような呉服店向の店舗兼住宅とし、現にこれを使用占有しているものであることを認めることができる。右認定に反する証拠はすべて採用しない。
また証拠によれば本件アパートの敷地たる東京都中野区昭和通三丁目四九番地は一筆の土地で地積は五〇三坪あつて右長田信の所有に属することが明らかであり、旧建物の敷地も当然その一部に属するものと推認すべきである。被控訴人は土地所有者たる夫長田信から適法に建物所有のためこの土地を使用する権原を与えられていたものと推認するのを相当とする。
旧建物は区分所有権の目的として被控訴人の所有に属することは前記のとおりであるが、このうち少くとも本件アパートの二階を支える柱十数本及びその基礎工事、西側アパートとの仕切にある壁等は本件アパート所有のためにも不可欠のものであるから、これらは本件アパートと旧建物との共用に供されているものと認めるべきであるが、証拠によれば本件アパートの所有者たる訴外三信鉱業株式会社は被控訴人の夫長田信を代表取締役として事実上同人の主宰するものであつたことが認められ、この事実と本件口頭弁論の全趣旨とをあわせれば、被控訴人が旧建物の所有権を取得した当時少くとも二階を支える柱及びその基礎工事は、これを二階の所有のために供するという負担を負うたまま被控訴人の単独所有に帰したものと認めるべきものである。
しからば以上に認定したような本件賃貸借の目的物は何か。被控訴人はこれを家屋の賃貸借と主張し、控訴人は家屋の敷地たる土地の賃貸借であると主張する。しかし前認定の事実及び本件の証拠調の結果によれば(1)本件土地は長田信所有の一筆の土地五〇三坪の一部であるのに賃貸借にあたつて土地の部分はどの範囲で坪数がいくらであるかも明示された事実はなく、(2)この土地の上にはすでに被控訴人が権原により所有する既存工作物があり、しかもこれらは本件アパートの二階を支えるためにも不可欠であるから、この土地をさらに控訴人に賃貸するとすればきわめて複雑な関係となるはずであるが、この点についてのかくべつの取りきめは見られず、(3)この場所に家屋を建築するには既存工作物を除外するのではなく、これを利用するわけであるが、これを利用しないではほとんど家屋の建築はできない状態にあること、かの橋脚やガード側壁の利用とは同日の談でなく、(4)賃貸借にあたり賃料はあらかじめ公定を少し上まわる程度という話し合いであつたが結局取りきめられた賃料月額三千円は土地の賃料としては高額に過ぎ、とうてい「公定を少し上まわる」という程度のものでないのに、控訴人は異議なくこれを承諾していること、(5)本件賃貸借についてはその契約証書に代るものとして被控訴人は裁判上の即決和解の成立を希望し控訴人にその必要書類の交付を求めたが、その際の条項には明らかに家屋の賃貸借たることを示す文言があつたのに、控訴人としてはこれにはかくべつの不服はなく、ただその和解条項が全体として賃借人に酷であるということと即決和解の方法によることとをきらつてこれを拒絶したに止まること等の事実に徴するときは、本件の賃貸借をもつて土地の賃貸借であるとすることは不自然である。
本件賃借当時の旧建物は前記のとおりの状況にあり、このうち柱や基礎工事は二階を支えるためには不可欠であるから階下に家屋があると否とに拘らず存在しなければならないものであり、また屋根にあたる二階の床についても同様の関係にある。しかしもともと旧建物ははじめは区分所有権の目的たる完全な建物であつたのを被控訴人が改造の上他に賃貸する目的で前記の程度にとりこわしたもので、建物たる効用を廃止する趣旨で取りこわしたものではなく、賃貸借当時は完全な建物から改造後の完全な建物へと移行する過程にあつたというに過ぎず、しかもこれら既存の工作物を除外しては建物建築はほとんど不可能というべき関係にあり、その前後を通じてみれば、これを取引上一個の建物と同視して差支えなく、この程度の段階において賃借人が自費でこれを完成して使用するという特約のもとにこれを賃貸借の目的に供するときは、かかる取引上一個の建物と同視すべきものについて賃貸借が成立するものと解するのを相当とする。
(二) 本件旧建物における既存工作物はそれだけを切りはなしてみるときはなんらそれ自体としては建物としての効用をもつものではなく、周壁その他の造作を加えてはじめて家屋としての本来の効用をみたすにいたるべきものであることはこれを肯認しなければならない。しかしかかる状態における既存工作物は本来家屋たりしものの骨格であるとともに将来家屋たるべきものの骨格をなし、しかも現に土地に定着するものであるから、それ自体動産ではなく、所有権の客体としては一の不動産と目すべきものである。これに反し控訴人の施した工事によつて附加されたものは、被控訴人の既存工作物と相まつて一の家屋を構成するその構成部分であり、既存工作物を失えば土地の定着物たるの実を失い、かつこれなくしては独立の存在を保ち得ない関係にあるから、前記既存工作物に従として附加された動産とみるべきものである。しかもこの状態のままではそれは独立して所有権の客体たり得りるものではないから、民法第二四二条により、その但書にかかわらず控訴人はこれについて所有権はこれを留保し得ず、現在ある家屋の全体は附合により被控訴人の所有に帰したものと認めるのを相当とする。従つて当初の賃貸借は本件家屋が被控訴人の所有に帰した時から当然に本件家屋全体に及ぶにいたつたものというべきである。控訴人としては少くとも民法第二四八条によりその費した金額の償還を求める権利を有するものと解すべく、控訴人としてはこれをもつて満足するほかはないものといわなければならない。しからば控訴人が現に本件家屋の所有権を争うこと本件において自明である以上、これが被控訴人に属することの確認を求める被控訴人の本訴請求は理由がある。